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時々きます

自臭症になったときの長い日記

自臭症という病気を聞いたことがあるだろうか。

二年ほど前、私はこれを患った。

私に専門的な知識はないが、この時の経験を記録しておこうと思う。かなりの長文になります。誰かの役に立つと嬉しい。

なお、腹部の不調のため食事中の方は不快に思われるかもしれない。ご注意ください。

 

 

 

症状が出始めたのは夏から秋へと移り変わる頃だった。

とにかくお腹の調子が悪い。腸のあたりがゴロゴロと鳴り腹痛が絶え間なく続き、泥状の下痢をするようになった。普段からお腹の弱い方で、月に数回はお腹を下していたので、始めは気にしていなかったが一週間、二週間と症状が長引き、私はすっかり参ってしまった。

今思うと、当時は職業訓練校に通っておりストレスフルな生活を送っていたのが原因だろう。前職の上司からのハラスメントで受けた心の傷も癒えぬまま、十分な蓄えなしに無職になってしまったことへの不安感は私を暗闇に突き落とすようだったし、職業訓練校での勉強が想像よりもハードだったこと、隣の席の女性から不当な嫌がらせを受けていたことが重なって、「頑張りたいのに身体が思うように動かなくなる」という状況に陥ってしまった。

以前のエントリにも書いたが、私は睡眠障害を抱えており、久しぶりのハードな座学に緊張もしていた。眠ってはついていけないとコーヒーを大量に摂取していたのも悪さしたのかもしれない。(大量にと書いたが、コンビニに売っている500mlのアイスコーヒー一本分くらいであった。エナジードリンクなどは滅多に飲まなかったから、日本人の平均的な摂取量だと思っていた。そのサイズの商品はたくさん売っていたので。私の体質はカフェインに少々弱かったのかもしれない。)

結局、私は3ヶ月の職業訓練校の最後の二週間はほとんど通うことができなかった。腹音、腹痛、ひどい下痢、それからガスの張ったような症状に苦しめられた。時間が経つほどそれは悪化し、まず授業中にフルタイム座っていることが難しくなり、隣の席の女性から臭いと煽がれるようになり、電車に乗れなくなった。階段を転がるようにあっという間の出来事で、私は自分の体に何が起きてるのか理解できないまま訓練校を卒業した。ものすごく悔しかった。

 


ストレスの一因となった職業訓練校を卒業してもわたしの症状は良くならなかった。この頃からオムツをつけ始める。ドラッグストアで売っている自立できる大人用の薄型パンツタイプだ。

職業訓練校の最後の二週間あたりから、わたしは特にガスに悩んでいた。つまりおならである。

便を漏らすことはないけれど、周囲にバレてしまうようなガスが出るようになった。ラーメン屋さんやカフェで、手で大きく煽がれたり、怪訝な顔をして盗み見られたり、明らかに他人に迷惑をかけるような失敗を数回してしまったため、人前に出るのがすっかり怖くなってしまった。通常のパンツでは外に出られなくなってしまったのだ。オムツの袋に書いてある消臭効果の文字に縋るようになった。この消臭効果というのは主に尿を対象に書かれており、もちろん効果はあまり期待できなかったが、履かないよりは幾分気持ちはマシだった。ハローワークなどにどうしても出かけなければならない時は、オムツを履いてズボンを履いてできるだけ短時間だけ出かけた。スカートは怖かった。

 


体はちっとも良くならなかったが、なにせお金がなかったので、無理を押して何とか面接を受けて内定をいただいた。現在の勤め先である。

ところがここからが本当の地獄だった。

体調不良で休んだ時に心配をしてもらえるのが学校、詰められるのが会社である。

新しい職場、新しくチャレンジする職種に緊張した私のお腹が良くなるわけもなく、入社時面談でグギュゴゴゴと鳴り響く私の腹音。上司達は「朝ごはん食べなかったの〜?」と和やかに流してくれたが、私は冷や汗が止まらなかった。それからは腹痛で職場のトイレに篭ったり、遅刻・欠勤したりと勤務態度は最悪なスタートだった。

正直この頃はよく思い出せない。ほとんど記憶がないのだ。覚えているのは時折上司に呼び出されて「どうしたの?」「持病があったの?」と聞かれたこと。違うんです、違うんですと謝り続けたこと。仕事なんて手につかなかった。

ちなみにこの頃はほとんど食事を摂っていなかった。何を食べても体臭につながる気がしたからだ。出来るだけ腸に良いものをと思いヨーグルトや乳酸菌入りの納豆を食べた。主食はゼリーだった。コーヒーはやめた。それでも胃腸は改善しなかった。

そして、私はついに禁断の薬に手を出してしまう。そう、下剤である。お腹がガスで張って仕方ないのは腸内に老廃物が溜まっているからでは?と考えたのだ。

ご想像通り、ろくに物を食べず毎日腹を壊している人間の腸内に残っているものなんてほとんどない。当然下痢はひどくなった。出すものもないので粘液っぽい水分が出てくるだけだった。それでも体内に残っているはずの老廃物を出せば、出し切ればお腹も良くなるはずだと思い込んでいた。

 


それから私は胃腸の専門医を訪ねることになる。

上司の1人が教えてくれた病院は、都内の辺鄙な場所にあった。ここで胃カメラと大腸カメラを受けた。問診に答えて台に登る。麻酔が効いて朦朧としながら医師の声を聞く。

「うーん綺麗だけどなぁ…」

今思えばそれは当然だ。だってこれは精神の病気だから、体に異常はないのだ。胃カメラも大腸カメラも問題ないという診断がおりた。整腸剤をもらって帰った。

絶望した。こんなにお腹の調子が悪いのに、私の胃腸には病気がないのだ。

その後も精神科を訪ねては門前払い(睡眠の特殊な薬を飲んでいるので診てもらえなかった)されたり、私の迷走は続いた。

 


そんな私を救ってくれたのは、エビリファイ、そしてレキサルティという薬である。

統合失調症の薬らしいのだが、これが私の被害妄想気味な不安感を払拭してくれた。エビリファイは多動というかソワソワした感覚を覚えたが、後発品のレキサルティはそんなこともなく、私の精神はなんというかまろやかになっていった。

もちろん一夕一朝では良くならなかったが、辛抱強く薬を服用することでご飯が食べられるようになってきた。

 


長くなってしまったが、つまり私が言いたいのは、精神の病気は体をガラッと作り替えてしまうということ。

お腹が痛いなんてだれにでもあることだと馬鹿にしないでほしい。臭い気がするという人を笑わないでほしい。思い込みの力はすごい。

誰にでも起きうる現象だ。身近に似た症状の人がいる時はどうか治療を進めてあげてほしい。大丈夫。治るのだ。

みんなが、健やかに生きられればいいのにと切に思う。

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